私好みの新刊 2020年12月
『 まぼろし色のモンシロチョウ』(たくさんのふしぎ2020年6月号)
小原嘉明/文 福音館書店
モンシロチョウは日本のどこででも多く見られるごくふつうのチョウだ。
著者はそのモンシロチョウにふと疑問を持った。オスがどうやってメスを
見つけるのか。言われてみれば不思議な行動である。モンシロチョウなど
昆虫は赤外線、紫外線を感じる生き物だ。調べてみると案の定紫外線で見
ていることがわかった。モンシロチョウのオスは、紫外線を含んだメスの
羽根の色を見ていたのだ。そこから著者の研究が深まった。関東のモンシ
ロチョウの紫外線反射の色と、沖縄や対馬など南方のモンシロチョウの紫
外線反射の色が微妙に違うことに気が付いた。これはどうしてだろうか。
著者は、ヨーロッパ各地やウクライナ・キエフ、中央アジア、東アジアな
どのモンシロチョウの紫外線反射の色を調べてみた。すると、ヨーロッパ
に比べてだんだんと紫外線反射の色が薄くなっていることに気づいた。
これは何か変化の兆しがあると見た著者はチョウの進化の過程を考えた。
ヨーロッパで生まれたモンシロチョウが、中央アジアなどを経てだんだん
と日本にたどりついたのではないか。日本にモンシロチョウがやってきた
のは農耕が始まった縄文時代ではないかと著者たちは考えている。さらに
後の時代になって船によって幼虫などが拡散し分布を広げたことも考えら
れている。そこでまた問題点が浮かび上がった。日本では先着組と後着組
との交雑が日本では始まっていたのではないかと言う。
なんでもない研究もつぎつぎとおもしろいと著者は強調する。
700円
『博士の愛したジミな昆虫』(岩波ジュニア新書)
金子修治他/編 岩波書店
表題の通り、一見ジミな昆虫に面白さを見つけた博士たちのエッセイ集
である。ここに出てくる昆虫は「見かけのジミな虫ばかり」である。とは
いえ、そのジミな昆虫も生き方は千差万別でわたしたちの生き方にも参考
になるという。そのジミな虫たちの研究物語が語られている。
最初出てくるのは、テントウムシ。テントウムシも二種類が見事に棲み
分けているという。ナミテントウとクリサキテントウ。よく似た種類だか
らこそ交尾が起きてしまうこともあるという。もちろん、異種間の交尾で
は子どもは長生きしない。それを防ぐにはお互いができるだけ接近しない
ことだ。それで、幼虫の食草も棲み分けているらしい。うまい知恵である。
チョウにもよく似た事例がある。モンシロチョウとスジグロシロチョウ、
エゾスジグロシロチョウがとてもよく似た種なのに、食草はそれぞれ違っ
たアブラナ科の植物である。近い種であるからこそ、争わない世界を作り
出している。ゾウムシはメスがオスより口吻がとても長くて丈夫である。
口吻の先はツバキの固い実まで穴をあけ卵を産むためどんどん進化してき
たという。幼虫は厚い椿の実の中で育つ。母虫の執念が進化をつかさどっ
てきた。アリ類には単独で行動するだけでなしに、他の個体と協力して行
動するものもいるという。食物との共生関係で生きているアリもいる。
植物から食へ物と巣場所を得るかわりにつる植物などの付着を防いでいる
アリもいる。アリとアブラムシの共生関係はよく知られているが、どっこ
いそのアブラムシにたくさん卵を産み付けているハチもいる。
最後に、農作物と害虫・農薬の話がある。米作を中心に人間がたどって
きた害虫駆除の攻防問題がくわしく書かれている。これはついに生態系破
壊、母乳汚染にまで発展した。
たかが小さな昆虫の話であるが、したたかな昆虫の生き方がわかる話が
多い。 2020年4月刊 880円